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旧優生保護法

1 旧優生保護法についての最高裁判所の判決

 先日(7月3日)、最高裁判所で、旧優生保護法のもとで不妊手術を強制された人たちが国を訴えた裁判で、国に賠償責任があるとする判断が確定したとして大きく報道されました。 
 この判決は、障害を持つ人に対して不妊手術を強制した旧優生保護法を違憲であると明確に判断した点で画期的な判決です。
 法律的には、最高裁判所での争点は、たった一つ、被害者の損害賠償請求権が、民法に定められていた期間(20年)を経過したことにより消滅しているかどうか、だけでした。旧優生保護法で、不妊手術を強制することが憲法13条(個人の尊重、幸福追求権)、14条1項(法の下の平等)などに違反し、その違反により被った損害賠償請求権を行使できるかどうか、が争点でした。
 国側は、「民法では、不法行為から20年を経過した場合には、請求権は消滅すると定めている」と主張しました。これは、20年という期間を「除斥期間」と捉え、その例外は一切認めない、という考えです。最高裁判所は、これまでそのように解釈してきていました。しかし、最高裁判所は、不妊手術の強制は憲法違反であるとし、除斥期間についても、「著しく正義・公平の理念に反する特段の事情がある場合」には、期間が経過しても権利は消滅しない、との初判断を示し、これまでの判例を変更したのです。

2 「除斥期間」とは?

 不法行為に基づく損害賠償請求権の時効について、本件で適用される民法の規定は、「損害および加害者を知った時から3年」と「不法行為の時から20年」という二つの規定がありました。本件では、不妊手術は、数十年前に行われたものであり、20年以上の期間が経過しています。最高裁判所はこの「不法行為の時から20年」という規定は「除斥期間」であり、20年を経過すると、一律に請求権は消滅してしまい例外は認められない、と解釈してきました。
 しかし、本件が、国による著しく正義・公平の理念に反する人権侵害であることから、そうした場合には、除斥期間の主張は、信義則違反又は権利濫用であると判例を変更して、国の上告を棄却しました。
 学者の間では、以前から、そもそも除斥期間ではなく時効の問題と解釈すべきと主張されていました。20年経過したら、一律に請求権が消滅するというのではなく、時効期間と考えるというものです。

3 現在の民法(2020年令和2年4月1日から施行)と除斥期間

 現在では、20年というのは除斥期間ではなく、時効期間であると明確に規定されました(現行民法724条)。
 除斥期間ではなく、時効期間であるとどこが違うかというと、一番の違いは除斥期間というのは、20年が経ってしまうと、請求権は自動的に消滅してしまう、ということです。
 時効であれば、完成猶予と更新という制度があります。例えば、裁判を提起して請求すると時効の完成が猶予され、裁判が終了すると、時効が更新されます。
 時効の完成猶予となるのは、裁判上の請求(訴えの提起)、強制執行・競売、仮差押え、裁判外の請求(催告)、協議を行う旨の合意、天災です。
 このうち、時効が更新されるのは、裁判上の請求(訴えの提起)、強制執行・競売だけです。それ以外の、例えば、裁判外の請求(催告 内容証明郵便による請求が典型例です)は、その後6ヵ月は時効の完成を妨げますが、その間に訴訟提起をしないと時効は更新されず、時効が完成してしまいます。

4 時効というのは、長期間続いた事実関係をそのまま認めようとする制度です。

 消滅時効については、「権利の上に眠る者」(権利があるのに長期間行使しない人)は保護しない、また、長期間が経過してしまうと証拠が散逸し、真実を発見することが困難になること、などがその趣旨とされています。
 一般的には、早期に検討し、解決に向けて行動するほうが解決可能性は高くなります。

 今回の旧優生保護法の人権侵害は、当事者に不妊手術であることを知らせないままに手術を受けさせた事例もあり、さらに障害者に対する根強い差別もあり、当事者が声を上げることが不可能であったとの事情を正面から受け止め、「著しく正義・公平の理念に反する特段の事情がある」として、国の上告を排斥しました。
 今後、国は、訴訟提起していない被害者も含め、全面救済をすることが求められています。今後の動向にも注目しましょう。

相続登記の申請義務化について

 不動産登記簿には、所有者の氏名や住所が記載されていますが、土地の相続などの際に所有者について登記が行われないなどの理由で所有者が直ちに判明しない土地や、所有者が判明しても所在不明で連絡がつかない土地が大きな問題となっています。

 所有者が不明の土地の面積は、国土の22%に上るそうで(九州よりも広い!)、公共事業を妨げたり、管理が不十分なため、近隣に悪影響を及ぼすなどの問題が発生しています。 
 所有者不明土地の発生予防のために、民事基本法制の見直しがなされましたが、今回は、その中でも、多くの方に影響がある相続登記の申請義務化についてご紹介します。

1 令和6年4月1日から、相続登記の申請が義務化されます!

 相続によって不動産を取得した場合、現在は、不動産の相続登記の申請は義務ではありません。令和6年4月1日からは、相続登記の申請が義務化されることとなります。
 相続が発生した時に、遺言がある場合や、ない場合、相続人が複数いる場合や一人しかいない場合などで、遺産分割の話し合いが必要なのかどうかが変わります。

 遺言があれば、遺言により不動産を取得した相続人が、相続登記の申請を行うことになります。遺言がない場合でも、相続人が一人しかいない場合は、不動産を単独で取得した相続人が相続登記を行うこととなります。そして、相続によって不動産を取得した相続人は、その所有権の取得を知った日から3年以内に相続登記の申請を行わなければなりません。

2 遺言がない場合で、相続人が複数いる場合はどうなる?

 相続人全員で、遺産分割の話し合いを行うこととなりますが、遺産分割が3年以内に成立するかどうかによって、登記申請の内容が変わってきます。
 3年以内に遺産分割が成立する場合は、3年以内に遺産分割の内容を踏まえた相続登記の申請が可能であれば、相続登記申請を行えばよいことになります。
 これが難しい場合は、下記の遺産分割に時間を要するケースと同様の登記申請を行う必要があります。

3 遺産分割の話し合いに時間がかかりそう。相続登記の義務は免除される?

 早期に遺産分割をすることが困難な場合は、「相続人申告登記」を、不動産の相続を知った日から3年以内に行う必要があります。
 「相続人申告登記」とは、登記簿上の所有者について相続が開始したことと自らがその相続人であることを申し出る制度です。
 この申出がされると、申出をした相続人の氏名・住所等が登記されますが、持分までは登記されません。また、登録免許税はかかりません。
 相続人が複数存在する場合でも特定の相続人が単独で申出することが可能で、登記簿に氏名・住所が記録された相続人のみ、相続登記申請義務を履行したこととなる点に注意が必要です。
 遺産分割が成立したら、遺産分割成立日から3年以内に、遺産分割の内容を踏まえた相続登記の申請を行う必要があります。もし、遺産分割が成立しなければ、それ以上の登記申請は義務付けられません。

4 登記義務に違反すると、どうなる?

 正当な理由なく義務に違反した場合は10万円以下の過料(行政上のペナルティ)の適用対象となります。
 正当な理由の例として、相続人が極めて多数に上り、戸籍謄本等の資料収集や他の相続人の把握に多くの時間を要するケース、遺言の有効性や遺産の範囲等が争われているケース、申請義務を負う相続人自身に重病等の事情があるケースなどが想定されています。

5 過去の相続にも適用される?
 令和6年4月1日より以前に相続が開始している場合についても適用されます。
 令和6年4月1日か、相続によって不動産の取得を知った日のいずれか遅い日から3年以内に相続登記を行う必要がありますので、ご注意ください。

6 相続のことについてわからないことは、どうぞご相談ください。

 令和6年4月1日より、相続登記が義務化されますので、遺産分割を行わず放っておくと、過料が科される場合がありますので、早めに遺産分割の話し合いを開始することをお勧めします。


 もし、相続する意思がない場合は、そのままにしておかず、家庭裁判所にて、相続放棄の手続が必要となります(相続開始を知った時から3か月以内の期間制限にご注意ください)。
 遺産分割の話し合いや相続手続には法的な知識が必要なことも多いので、わからないことがありましたら、どうぞご相談ください。

成年後見制度

 今回は、成年後見制度についてです。
 後見人という言葉を聞いたことがあると思います。
 超高齢社会と言われる日本において、介護保険が始まったと同時に2000年4月から、今の成年後見制度が始まっています。その概要を紹介します。
 さらに、今、この制度をより良いものにし、社会全体も、誰もが生活しやすいものにしていこうと改正の論議がなされています。

1 成年後見制度を知っていますか?
 2000年から、認知症、知的障害、精神障害などの判断能力に困難を抱える人に支援者を選任する制度として、成年後見制度が始まっています。
 本人の判断能力の困難性の程度に応じて、後見(判断能力を欠いている)、保佐(判断能力が著しく不十分)、補助(判断能力が不十分)の3類型に分かれていて、それぞれ成年後見人、保佐人、補助人が選任されます。

2 一番利用の多い後見類型について説明します

 4親等内の親族や、本人の住所地の首長が家庭裁判所に後見開始の審判を申立てると、成年後見人が選任されます。成年後見人は本人の法定代理人であり、本人に代わって財産管理を行います。通帳やカードは、成年後見人が保管し、本人のために使用していくのが一般的です。

 また、本人に必要な福祉サービス(介護保険サービスや障害福祉サービス)についても検討したり、契約したりします。特別養護老人ホームなどの施設入所が必要であれば、申込や入所契約を行い、その後の費用支払いも行っていきます。

3 後見人には誰がなるの?

 後見人になるために、特別な資格は、法律上は要求されていませんが、現状では、専門職(弁護士、司法書士、社会福祉士など)が8割程度となっています。
 これに対しては、「同居の子になってほしいと思っていたのに、全然知らない専門職が選任された」など、後見人の人選に不満や批判が言われることがあります。
 後見人に誰が選任されるかは、最終的には担当裁判官が決めることとなっていて、その人選には異議申し立てできません。
 申立てる際に、候補者を挙げることはできます。そのケースが、親族間で意見の違いがない場合や専門性が必要な課題(遺産分割などの法的課題や財産が高額など)が無ければ、候補者がそのまま選任される場合がほとんどです。また、財産が高額、という場合には、候補者を後見人とした上で、専門職の後見監督人が選任されることも多くあります。

 また、当初は、専門職が後見人に選任されたものの、専門性が必要な課題が解決した場合には、親族後見人や地域で養成されている市民後見人に後見人を変わる(リレー方式と言われています)ことも行われています。

4 後見制度改正の動き

 このような後見制度ですが、現在、法改正が議論されていて、数年後には変わっていくようです。
 一番の課題は、現在の制度は、一度後見人が選任されると、原則として一生続いていく、というところにあります。
 例えば、本人の父親が亡くなり、遺産分割の必要性があって申立てられた場合、遺産分割という法的課題があることから弁護士後見人が選任されたとします。遺産分割が終了すれば、あとには特別の法的課題がない、という場合があります。元の平穏な日常生活に戻ったけれども、後見制度は、本人の判断能力が回復しないと取り消せない、ということになっているため、亡くなるまで後見人が財産を管理し続けることとなります。
 しかし、後見人に遺産分割協議だけを行えば、財産管理は本人が行えている、あるいは家族の中で管理できている、というような場合もままあります。  

 現行の制度は、実際のケースの具体的内容に合わせるのではなく、一律に権限が定められているため、実情と合わない場合があるのです。
 さらに、2014年に我が国も批准し、法的拘束力がある障害者権利条約では、日本の成年後見制度のような法定代理人による代理・代行決定の制度は、障害を理由とする差別であるので、廃止すべきとされています。

 基本的人権である自己決定権を尊重し、他者である成年後見人が決定(代理・代行決定)するのではなく、本人自身の意思決定を支援していく仕組みに転換していくことが強く求められています。
 現行の成年後見制度を、必要な時に必要な範囲と期間に利用し、他者決定ではなく、本人の意思決定を支援する制度とするため、白熱した議論がなされています。
 これについては、現在、弁護士をはじめとした専門職、当事者団体、学者、最高裁判所、法務省、厚生労働省から委員が出て、研究会が設けられ、議論されています。(公益社団法人商事法務研究会に「成年後見制度の在り方に関する研究会」)

 障害を持つ人たちを含め、誰もが自分のことは自分で決めていく、そのために必要な情報取得等の支援を受けられる、そんな社会が出来ていけば、誰にとっても暮らしやすい社会になると思います。私たちの社会の在り方にも影響がある制度改正に、ご注目ください。



相続土地国庫帰属制度

 実家の土地を相続したが、遠くに住んでいて利用する予定がないし、管理も大変だ、と悩まれたことはありませんか?
 令和5年4月に、相続した土地を国が引き取る制度(相続土地国庫帰属制度)がスタートします!
 今回は、相続土地国庫帰属制度についてご紹介します。

1 申請ができるのはだれ?

〇相続又は遺贈(以下、「相続等」と言います)により土地の所有権を取得することが必要です。
 したがって、売買により土地を取得された方は、この制度を利用することはできません。

〇共有者も申請ができます
 相続等により、土地の共有持分を取得した共有者は、共有者の全員が共同して申請を行うことによって、本制度を活用することができます。

 また、売買によって共有持分を取得した共有者がいる場合でも、相続等により共有持分を取得した共有者がいるときは、共有者の全員が共同して申請を行うことによって、本制度を活用することができます。
 本制度開始前に相続等した土地も本制度の対象となりますので、数十年前に相続した土地についても、本制度の対象となります。

2 どのような土地であれば引き取ってもらえる?

 どのような土地でも国が引き取ってくれるわけではありません。下記のような通常の管理や維持に必要以上の費用や労力がかかる土地は、管理が大変であるため、引き取ってもらえません。

 ××このような土地は制度の対象となりません××

  1. 建物がある土地
  2. 担保権や使用収益権が設定されている土地
  3. 通路など他人によって使用されている土地
  4. 土壌汚染されている土地
  5. 境界があきらかでない土地、所有権の存否や範囲に争いのある土地
  6. 崖のある土地など、通常の管理にあたり過分の費用又は労力を要する土地
  7. 工作物や樹木、車両などが地上にある土地
  8. 除去が必要なものが地下にある土地
  9. 隣接する土地の所有者などと争訟をしなければ使えない土地
  10. その他、通常の管理や処分をするにあたり過分の費用又は労力がかかる土地

3 国に納付する費用はいくら?

 土地所有権の国庫への帰属の承認を受けた場合、10年分の標準的な管理相当額を負担金として納付する必要があります。どのような管理行為(巡回のみで足りるか?柵設置、看板設置、草刈などが必要か?)が必要となる土地かによって負担金は変わります。
 宅地の場合、巡回のみで足りる土地は面積に関わらず20万円ですが、草刈などの管理を要すると考えられる一部の市街地等(都市計画法の市街化区域又は用途地域が指定されている地域)の土地については、土地の面積に応じて負担金の額を算定することになり、例えば100㎡で約55万円、200㎡で約80万円となります。面積が大きくなるにつれて1㎡当たりの負担金額は低くなるため、単純比例ではないことに注意が必要です。

田、畑も、巡回のみで足りる土地は面積に関わらず20万円ですが、一部の市街地、農用地区域等の田、畑については面積に応じて算定することになり、500㎡で約72万円となります。
 森林は面積に応じて算定され、1500㎡で約27万円、3000㎡で約30万円となります。

4 手続の流れ

 法務局で、申請書と必要な添付書類を提出し、審査手数料を納付します(審査手数料の金額はまだ決まっていません)。その後、法務大臣(法務局)による要件の審査・承認手続が行われ、国庫への帰属の承認を受けた場合、負担金を納付することにより、土地が国庫に帰属することとなります。

5 おわりに

 相続土地国庫帰属制度を利用できれば、要らない土地を手放すために買い手を探す必要もなく、国に引き取ってもらうことができます。他方で、上記で見たとおり、この制度を利用するためには様々な条件を満たす必要があります。建物が建っている土地は更地にするために建物の取り壊し費用がかかったり、また、土地の境界が不明確な場合は、申請前に境界を確定するための測量が必要になりますので、別途それらの費用がかかることに注意が必要です。
 要らない土地を相続で取得してしまい、制度を利用したいという方は、お気軽にご相談ください。

死後事務って何?

 超高齢社会と言われる今、一人暮らしの高齢者も多く、自身の死後のことを案じる相談も多くなっています。
 「死後事務」「死後事務委任契約」という言葉を知っていますか?

1 死後事務

 高齢になってくると、どうしても自分の死後について思いを馳せることが多くなってきます。特に、一人暮らしで、近くに頼れる人がいないという高齢者にとっては、万が一の時の不安は深刻です。
 そんなときの備えの一つが「死後事務委任契約」です。

2 死後事務委任契約の検討

 最初に、自身の希望をよく考えてみましょう。先祖代々のお墓があって、そこに自分も入りたい人もいれば、ほかにお墓を求めたい人もいます。最近は、海などへの散骨を希望する人もいます。

 葬儀についても、親しい人を呼んで葬式をしてほしい人もいれば、葬儀は不要で、納骨まで終わってから、親戚や知人に知らせてほしいという希望の人もいます。自分の希望をあらためて検討してみましょう。

 法定相続人との関係も重要です。死亡すると自動的に相続が開始し、あなたの財産は相続人のものになるのです。死後事務委任契約を締結しておくと、ほとんどの場合、相続人も拘束しますが、できれば、相続人も納得して協力してくれたほうがトラブルになりません。

3 死後事務委任契約の具体的内容

①葬送に関する事務
 葬儀の実行、納骨や埋葬、また、その後の供養などが考えられます。葬儀を行う方法、埋葬の方法などを決めておきます。
 また、お墓はあるもののお墓の承継者がいないために墓じまいを希望する人もいます。墓じまいについては、それぞれの墓地によって、行い方が異なってきますので、具体的に検討する必要があります。永代供養を行ってもらって、お墓の使用権はお寺に返還する、というやり方が多く見受けられます。その費用も、決まりがあるところもあれば、住職との話し合いで決まるところもあり、様々です。

②死亡届
 葬儀を行う前提としても、自治体に死亡届を提出することが必要です。しかし、死亡届は、誰でもできるわけではなく、届出人が法律で決められています。親族や同居人であれば、届出人になれますが、死後事務を依頼されただけの人は、死亡届を出すことができません。他の親族や同居人、または家主や地主さんなど、届出人がいるかどうかも考える必要があります。
 死亡届を届出る親族や同居人がいないようであれば、任意後見契約を締結しておくことも考えられます。任意後見契約とは、自身の判断能力に困難が生じた場合に備えて、将来の自分の後見人を決めておく制度です。今後、もしも認知症などで、自身の判断能力に困難が生じても、自分が決めた任意後見人が代理人として活動し、あなたの人生を支えてくれます。また、任意後見人になる予定の人(任意後見受任者と言います)も、死亡届を出すことができます。

③その他の事務
 一人の人が亡くなった後の手続きはその他にも諸々あります。現状では、病院で亡くなる方が多いので最後の入院費の支払い、年金の死亡届と未支給年金の清算、高額療養費など役所からの給付金の清算、遺留品の処分などです。

 かわいがっていたペット、SNSのアカウントやインターネットなどの個人情報の抹消処理や契約の解約なども、今後増えていくと思われます。ペットの引き取り手を探したり、SNSの解約方法を予め確認しておくなど、準備が大切です。

 こうした事務の中から、どれをどのようなやり方で依頼するのかを決めて、死後事務委任契約を締結しておくと安心です。

4費用について

 死後事務委任契約の費用は、受任者(死後事務を執行してくれる人)に支払う報酬と、死後事務自体に必要な費用が考えられます。

 例えば、葬儀や墓じまいを行う場合、その費用が必要です。費用の金額は、葬儀の内容などによって違ってきます。前もってよく調べておくことが大切です。
 受任者は、葬儀業者やお寺さんなどと協議をし、あなたの希望をかなえるべく活動します。その報酬をどうするかについては、受任者とよく話し合って決めておきます。
 それらの費用、報酬などについては、予め受任者に預けておくことが一般的です。

5 報告

 最後に、受任者が死後事務を執行した後、その結果を報告する人や、預り金についても残金があれば、それを渡す人についても、決めておくことが適切です。人生の最後の時も、自分で決めておくことで安心を得る、そんな契約にすることが一番大切です。



配偶者暴力防止法の改正について

 離婚の相談では,配偶者から暴力を受けているというご相談を受けることがあります。
 自宅を離れて住所を秘密にしているのに,探し出そうとしたり,電話やメールでしつこく連絡してくるのが怖い,やめてほしい,という場合,裁判所に対して,配偶者暴力等に関する保護命令の申立てを行い,接近禁止や電話等の禁止を行うことができます。

 配偶者暴力相談支援センターへの相談件数や,警察本部長等への援助申出受理件数や検挙件数は近年増加しているにも関わらず,裁判所の保護命令の申立件数も認容件数も減少が続いている状況です。これは,保護命令の申立ての範囲が,身体的暴力に限定されていることや,保護命令が出されても,6か月という短期間の接近禁止や電話等禁止の効果しか得られないなどから使いにくい制度となっていることが一因です。
 現在,内閣府男女共同参画局のワーキンググループ(WG)において,法律の改正案の検討がされており,来年の通常国会の提出を目指して素案が発表されましたので,内容を簡単にご紹介します。

1 保護命令の対象に,精神的暴力,性暴力を追加する

現行法では,身体に対する暴力に限定されています。保護命令には刑罰の罰則規定があるため,対象となる行為を明確にすることが必要だと考えられたためです。しかし,令和2年度の内閣府のDV相談窓口に寄せられた相談のうち,身体的暴力は約3割,精神的暴力が約6割であり,DVの実態に対応するため,保護命令の対象に含める方向で検討がされています。WGでは,繰り返される暴言や長時間の説教で寝かせない,大声で長時間怒鳴る,長時間叱責する,ひどい侮辱をするなどの行為について対象に取り込めないか議論されています。

2 SNSでのつきまとい等を禁止行為に追加する

 現行法では,電話や電子メールの送信は禁止行為に含まれるのですが,SNS等を利用したつきまとい等は対象に含まれていません。
 ストーカー規制法が改正され,SNSでのつきまといやGPS等を使用して位置情報を把握することやそれを告げること等が対象に含まれました。例えば,開設しているブログやホームページにコメントを書き込む,Facebookで執拗に友達申請をしてくるなどが規制対象となりました。保護命令の禁止行為にも,SNSでのつきまとい等を追加することが議論されています。

3 保護命令違反の罰則の加重について

 現行では1年以下の懲役又は100万円以下の罰金とされていますが,ストーカー規制法の罰則強化に合わせて,2年以下の懲役又は200万円以下の罰金とすることが検討されています。

4 接近禁止命令期間の拡大・延長について

 接近禁止命令の期間が現行では6か月とされていますが,離婚の訴えにおける平均審理期間が1年以上に及び離婚調停で成立した件数のうち45%が別居期間6か月以上です。また,生活の平穏を取り戻すまでには相当な期間の別居期間が必要であることや,ストーカー規制法では禁止命令の期間が1年とされていることなどから,保護命令の禁止期間も1年に拡大することが検討されています。

5 その他

 加害者プログラムへの取組を進めることや,現行法では2か月しか認められていない退去命令を,例外的に6か月出せることとするかなど議論されています。
 また,現行法では,婚姻関係がなくても,生活の本拠を共にする交際相手からの暴力については,保護命令の対象となっていますが,生活の本拠を共にしない交際相手からの暴力(デートDV)についても一律に対象とすることは難しいという議論がされています。
 これは,法が,配偶者暴力は密室の閉鎖的関係において行われる暴力であり,外部から被害が発見されにくく,被害が深刻化しやすい等の特殊性があるとして,一般の暴力とは別に特別の立法が必要であると考えられているからです。交際相手全てを一律に対象とすることは趣旨に合わないと考えられています。
 また,WGでは,現行法においても,在留資格のない外国人やLGBTQのカップルが生活の本拠を共にする場合についても保護命令の対象となるということが確認されています。LGBTQのカップルに関し,同性カップルにつき保護命令の申立てができるか否かについて,否定的な裁判官の論稿もありますが,WG内で確認された内容の周知が必要です。

最後に

配偶者が暴力行為を認めない場合,裁判所に,保護命令の発令をしてもらうためには,受傷状況のわかる診断書,写真や,暴力行為の動画,録音記録などの証拠が必要になります。病院に通院していない場合でも,怪我の状況を写真で撮影するなど記録を残しておくことが大切です。また,今後,保護命令の対象に精神的暴力が追加された場合でも,大声で怒鳴っている様子や人格を否定するようなLINE等のメッセージの記録などは必要となると思われます。証拠を消さずに,保存しておくことが重要になります。

「配偶者暴力防止法の改正について」2021年冬号が更新されました

「配偶者暴力防止法の改正について」2021年冬号

「あなたに役立つ法律通信」バックナンバーです。

2021年冬号 「配偶者暴力防止法の改正について」
2021年夏号 「終活」
2020年冬号 「国・市区町村の取組みの現状や、議論状況について」
2020年夏号 「自筆証書遺言の保管制度が始まっています」
2019年冬号  「損害賠償金や養育費などの取立て」
2019年夏号 遺言制度・遺産分割の見直しについて」
2018年夏号  「『信託』って何だろう?」
2017年冬号 「法定相続情報証明制度」
2017年夏号 「ストーカー規制法」
2016年冬号 「遺言書の書き方について」
2016年夏号 「認知症などの病気や障がいは,大きな課題」
2015年冬号 「高齢社会と成年後見制度」
2015年夏号 「終活」
2014年冬号 「悪徳商法を撃退するクーリングオフについて」
2014年夏号 「ストーカー規制」
2013年冬号 「自己破産の申立」
2013年夏号 「遺産分割・相続の考え方」
2012年冬号 「知っているようで知らない『お墓の話』」
2012年夏号 「相続と遺言」
2011年冬号 「悪徳商法を撃退するクーリングオフについて」
2011年夏号 「地震に伴う相談」
2010年冬号 「交通事故」
2010年夏号 「自分の将来に備える任意後見制度」
2009年冬号 「訪問販売とクーリングオフについて」
2009年夏号 「相続について」
2008年冬号 「個人情報」
2008年8月号  「約100年ぶりの保険法改正」
2008年1月号  「成年後見制度」
2007年7月号  「遺言」
2007年1月号  「離婚」