1 はじめに
今回は、ストーカー対策について取り上げたいと思います。最近では80歳女性のストーカー容疑で85歳男性が逮捕されるなどニュースでも取り上げられることが多い、ストーカーですが、ストーカー行為の認知件数(警察等の捜査機関が把握した犯罪の発生数)は、平成24年は前年比36.2%増の19,920件、平成25年は更に増加し、前年比5.9%の21,089件となり、増加傾向にあります。
ストーカー行為は、単なる恋愛関係のもつれとして、従前は対応を軽視されがちでしたが、近年では殺人事件等の凶悪犯罪に発展する事件も発生しております。ストーカーに対する法的対応はいろいろとありますが、重要なことは、ストーカーに対して、早期の段階で、はっきりと拒絶の態度を示すことです。
2 ストーカーに対する対応
ストーカーへの対応策としては、①弁護士からの内容証明による通知
②警察署に対するストーカー行為等の規制等に関する法律
いわゆるストーカー規制法に基づく警告の申出
③刑事告訴
④ 裁判所の接近禁止命令の申立
⑤民事上慰謝料請求
(1)規制対象の行為
恋愛感情からつきまとい、待ち伏せ、面会の要求、無言電話、連続電話や連続メール等が行われた場合、警察署長等に対して、ストーカー規制法に基づいて警告を行うように申出を行うことができます。連続電話や連続メールは、どのような内容のものでも良く、例えば、今日はいい天気だね、など、危険を及ぼす内容ではなくとも、規制の対象となりえます。
(2)警察の対応
警告の申出を行うと、警察は、ストーカーに対し、「つきまとい等」を繰り返してはならないことを口頭又は文書により警告します。
さらに、警告を受けたにも関わらず、ストーカー行為を続けた場合は、公安委員会から「禁止命令」というものが発せられることとなります。この「禁止命令」に違反した場合は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処せられることとなります。
このように、警告に違反した場合は懲役刑などの刑事罰に処せられることになりますし、ストーカーといえど警察には脅威を感じるので、弁護士からの内容証明通知で行為をやめないストーカーも、口頭警告又は文書警告により、行為をやめる場合がほとんどです。
また、警告が発せられると、その警告に違反して行為を継続していった場合は、手続がどんどん先に進んで、最終的には逮捕され、懲役刑に処せられることになりますので、警告を発してもらうことは一つの目標といえます。警察は、相談を開始した当日に、口頭警告(注意)を行ってくれることもあります。ストーカー行為に悩んでいる方は、できるだけ早く相談に行く事が重要です。
(3)注意点
では、つきまとい行為や面会要求等の行為が行われれば、どのような場合でも規制対象となるでしょうか? 注意が必要な点がいくつかあります。
ア 恋愛感情があること
まず、「恋愛感情」があることが必要です。単なる個人的恨みから行為が行われた場合は、規制の対象とはなりません。
イ 反復性があること
規制対象となるためには、複数回継続 的な行為が必要で、一回限りの行為では 対象となりませんし、複数回の行為でも頻度が少ない場合は、規制の対象とならない場合があります。もっとも、頻度は 少なくても、例えば、メールの内容に、生命・身体に対する脅迫文言が入っていたような場合は、警告が発せられやすいです。
ウ 明確な拒絶をしていること
さらに、ストーカー行為の規制対象となるつきまとい行為等にあたる前提として、「明確な拒絶」を行っていることが必要です。
この点、早期の段階で弁護士に委任し、弁護士から内容証明による通知を送っておけば、仮に通知後に行為がやまなかったとしても、拒絶の明確な意思表示をしたことが明らかとなりますので、弁護士からの内容証明は非常に有効です。
エ 証拠の提出
最後に、規制の対象となる行為であったとしても、警察は、ストーカーの相談を行えば、すぐに警告を発してくれるわけではありません。すなわち、ストーカー行為を裏付ける証拠を提出する必要があります。
例えば、送信されてきたメールや、着信履歴などです。ですので、ストーカーからの連絡は早く消してしまいたい気持ちはありますが、後々のことを考えて、そのまま保存されておくことをおすすめします。
とにもかくにも、現在被害に合われている場合は、証拠の整理ができていなくても、まずは警察に相談することが重要ですが、ストーカー経緯をまとめた時系列表を示し、警察署員に分かりやすく説明できれば、警察の対応はスピーディです。
(4)相談する警察署
それでは、どこの警察署に相談に行けばよいでしょうか?
ストーカーに関する相談を行う警察署は、原則として自分の住所地を管轄する警察署です。これは、ストーカーからつきまとい行為など行われた際に、警察が出動して直ちに対応できるようにするためです。
また、ストーカーが会社を訪問したり会社付近で待ち伏せしたりする場合には、会社近くの警察署にも相談します。 警察署では、24時間相談を受け付けていますが、所轄の警察署はストーカー専門の署員が常駐していないため、専門でない署員が対応することもあります。所轄の署員は、警視庁のストーカー対策本部の専門チームと連絡を取り合い、対応にあたりますが、専門ではないため、対応に遅れがでることもあります。
また、警視庁はストーカー対策室を設置して対ストーカー対策に力を入れていますが、そうはいっても、「証拠が不足しているとか」、「事実関係に照らせば警告を出すのは難しい」とか、「また来てください」と言われることがあります。
警察の注意や警告を求める場合は、とにかく、時系列表などを用いて、事実経緯を分かりやすく説明して急迫性や反復性を強調し、また、事実経緯に照らして証拠も整理して、警察を「説得」することが必要なのです。しかし、法律の専門家ではない被害者の方にとっては、警察を「説得」するのは容易なことではありません。そのため、ストーカー規制法に精通している弁護士に対応してもらうのが、負担が少なく、かつ、非常に効果的なのです。
(5)今後の課題
昨年の7月の改正により、メールの連続送信が規制の対象となりましたが、LINEなどのSNSについては対象となっておらず、今後の課題となっています。
また、これは、事件を通して強く感じたことですが、ストーカー事件は年々増加傾向にありますので、各所轄警察署にもストーカー対策の専門家を常駐させるか、署員に対する専門教育を行って頂き、24時間迅速な対応を行って頂く必要があると感じます。
3 おわりに
最初にも述べましたが、ストーカー被害に合われている場合は、ストーカーに対して明確に拒絶することが重要です。被害者がうやむやな態度をとっていると、行為がエスカレートします。お一人で悩まず、できるだけ早く、警察や弁護士などの専門家にご相談されることをお勧めします。