「相続と遺言」2012年夏号

 最近、相談を受けることが多いのは、 相続と遺言です。
 人生の後半期に入ると、相続や遺言のことが、気になってきます。
相続は、その人の死によって始まります。しかし、大事なことは、いかに生きるかということです。どこで、どのように生 きるのか、自分の人生にとって何を大事に考えるのか、それを良く考えることが大事なのだと思 います。
 その結果として、どんな遺言を残すかも決まってきます。
 また自分の人生の主人公は自分自身であり、自分の財産はまずは自分のために、自分らしく生きて行くために使うべきです。自分が輝いて生きてこそ、その遺志を受け継いだ人も輝くのではないでしょうか。相続と遺言のイロハを知って、自分らしい生き方と財産の行く末を考えてみてください。

1 相続人は誰?

(1)民法は法定相続人を定めています。
 遺言を書かなければ、法定相続人が遺産を取得します。まず配偶者(夫又は妻)がいれば配偶者は必ず相続人です。それから、(配偶者と共に)子ども、親、兄弟の順番で相続人になります。
 子どもがいれば、配偶者と子どもが相続人です。子どもが先に死亡していても孫がいれば、孫が相続人になります。子どもも孫もいなければ、親が相続人になります。 親が既に死亡している場合には、兄弟が相続人となります。
(2)例えば子どものいない夫婦の夫が亡くなった場合を考えてみましょう。
まず残された妻が相続人です。子どもがいないのですから、夫の親が健在であれば親が相続人です。
 親も既に亡くなっていれば、夫の兄弟が相続人となるのです。つまり子どもがいない高齢のご夫婦の場合、どちらか 一方が亡くなると残された配偶者は、(親も亡くなっている場合がほとんどですから)亡くなった人の兄弟と遺産分割協議をすることが必要となるのです。
 自宅不動産は亡くなった夫名義である場合も多く、その場合には、妻が安心して自宅に住み続けられるかどうかは、夫の兄弟との遺産分割協議の結果によることとなります。
 遺産分割のために、自宅を手放すことがお余儀なくされたということが無いように、「自宅不動産は妻に相続させる」などの遺言を残す必要性が高いケースです。

2 誰がどれだけ取得するの? (法定相続分)

 民法で、相続人と共に、各自の相続分も定められています。
(1)配偶者と子どもが相続人であれば、配偶者が2分の1で、子どもが2分 の1ずつです。子どもが複数いれば、2分の1を子どもたちで分けます。例えば、子どもが二人だと、それぞれ4分の1ずつ、ということになります。
(2)配偶者と親が相続人であれば、配偶者が3分の2、親が3分の1です。
(3)配偶者と兄弟姉妹の場合には、配偶者が4分の3、兄弟が4分の1です。
 夫が死亡して、妻と夫の兄弟3名が相続人の場合には、妻が4分の3、夫の兄弟が4分の1を3人で分けますから、12分の1ずつ、ということになります。
(4)この割合は、相続人全員の協議で変えることができます。誰か一人に全ての財産を集中してもいいし、例えば、不動産は妻が取得して、預貯金を子どもたちで分けるようにしても構いません。
 遺産分割協議で、相続人全員の話し合いで、どのように分けてもいいのです。また遺言で、法定相続分と違う割合を定めておくこともできます。
(5)相続人で無い人には権利がありません。例えば、お世話になった個人や団体に遺産を渡したいと思ったら、遺言を書く必要があります。

3 遺言はどうやって作るの?

 民法で定める遺言には実はいろいろな種類がありますが、よく使われるの は、自筆証書遺言と公正証書遺言です。
(1) 自筆証書遺言とは?
 文字通り、全文、日付け、氏名を全て自筆で書き、押印することが必要です。タイプライターやパソコンで作成したものは無効です。自筆のサインがあっても、サインだけでは、現行民法上、無効です。日付が無い、判子が無いというだけ でも無効となります。
(2)公正証書遺言とは?
 公証役場で、公証人に遺言の趣旨・内容を伝えて作成してもらいます。
(3)両者の違い
 自筆証書遺言は、遺言者の死後に家庭裁判所で検認(けんにん)という手続きが必要です。但し、効力には優劣はありません。公正証書遺言が優先することはないのです。複数の遺言があり、内容が矛盾する場合には、後に書いたほうが優先します。
 自筆証書遺言については、公正証書遺言と異なり、保管しているうちに破棄隠匿されるおそれがあります。また、本人の自筆かどうかや、内容についても疑義が生じやすく、争いも生じやすいと言えます。自分としては、明確に書いたつもりでも、あとで第三者から見ると内容がはっきりしないとされる場合もあります。
 自筆証書遺言を書いていらっしゃる方がおられましたら、一度、それを弁護士に示して、効力を確認しておかれることをお勧めします。ちょっとしたことで無効になってしまっては、せっかく書いた遺言がもったいないばかりでなく、あなたの遺志が受け継がれなくなってしまいます。

4 遺留分にも注意が必要です

 遺留分と言うのは、遺言をもってしても侵害できない権利です。配偶者・子ども・親は、遺留分を持っています。それぞれが相続人となった場合、法定相続分の2分の1(配偶者と子ども)か3分の1(親)は、必ず取得することができる権利です。
 例えば、配偶者と子ども一人がいるのに、「遺産の全てをある団体に寄付する」との遺言があったとします。この場合、配偶者と子どもは遺言が無ければそれぞれ2分の1ずつの法定相続分がありました。
 ところが遺産の全てが寄付されてしまえばゼロになってしまいます。この遺言に納得できなければ、遺留分を主張し、本来の相続分(2分の1)の2分の1、つまり4分の1について、寄付先の団体に対し、請求ができます。こうしたことが起きないように、遺留分を侵害しないような遺言にしておけば、残された遺族が争うことは無くなります。
 遺言は、このようにいろいろな内容があります。あなたの希望に合った遺言を考えてみてください。